熱中症の対策や対応の説明や記事の中で最近「手のひら等のAVAを冷やすと効果的」という文言をよく見るようになりました。
では、いったAVAとは何なのでしょうか?
本当に熱中症の対策や応急処置に効果があるのでしょうか?
今回はAVAについて考えてみたいと思います。
体温を調節する特別な血管! それがAVA
寒いとき、暑いとき、体温を調節する特別な血管! それがAVAと呼ばれる部分です1。
Arteriovenous Anastomoses
日本語で言うと「動静脈吻合」といいます
もう少し詳しく申し上げますと・・・
人間の体内では心臓のポンプ機能によって送り出された血液は、太い血管である動脈を通り体の抹消の毛細血管まで達すると静脈を通って心臓に戻っていきます。
つまり、心臓からの往路である動脈と復路である静脈は毛細血管を介して繋がっているのですが、その様な毛細血管を介する事無く動脈(Artery)と静脈(Vein)直接つながっている部分があります。
この部分を【動静脈吻合】 Arteriovenous Anastomose といい略してAVAと呼ばれています。
AVAは「手のひら」「足先」「耳とその周辺や頬」に多く見られます。
AVAの冷却は本当に熱中症に有効なのか?!
AVAの冷却が熱中症に有効だという文言がたいへんな誤解を招いているので、真っ先に申し上げておきたいと思います。
AVAの冷却は重症熱中症の応急処置には殆ど効果がありません!
これは、何度も申し上げている「首筋、脇の下、鼠径部の冷却が熱中症に有効」と言われてきた事と同様に、熱中症予防には効果があるが、応急処置には効果が非常に薄いというのと同様の事だとお考え下さい。
確かに、AVAの冷却も首筋など大血管の冷却も、冷えた血液が全身を巡るという意味では、例えばおでこや背中など何もない部分を冷やすよりはずっと有効であるといえます。
しかしそれは、熱中症予防の為のプレクールや生命に危険の及ぶ可能性の少ない非常に軽い熱中症の場合には他の部分の冷却よりはずっと有効です。という意味であって、意識がないとか、受け答えがおかしい、ペットボトルの蓋が自分で開けらないなど、30分以内に深部体温を3度下げないと生命の危険があるという重症の症状を呈しているときに、AVAや大血管の冷却はほとんど役にたちません。
「首筋を冷やすと有効です」「AVAを冷やすと有効です」という言葉は、熱中症Ⅱ度からⅢ度の時には全く当てはまらない事を申し上げておきたいと思います。
AVAは寒い時にも暑い時にも活躍する!
熱中症の予防に有効といわれるAVAは手のひら部分に多く存在していて、手のひらを冷やすと他の部分を冷やすのと比べて体温が下がり易くなります。
これは従来からよく言われている熱中症の予防には首筋や脇の下の太い血管を冷やすと良いというのと原理は似ています。
また、上の写真にあるように寒いときに温かいものを飲むとき、人は自然と無意識のうちに温かいカップで手のひらを温めるような持ち方をする場合が非常に多いですね。
これは人間の本能なのでしょうか?
このようにAVAは元々体温を調節する為の働きが大きい血管の部位なので、寒いときは体温を逃がさないように、暑いときは体温を放出するように、うまく調節する機能が備わっているのです。
AVA冷却による熱中症対策
冒頭に申し上げたように、「熱中症にAVAの冷却が有効」とは言っても、重症時の応急処置には効果が殆ど無いという事を踏まえて「AVAの冷却は熱中症予防」に活用して頂くとよろしいかと思います。
また、最近注目されているAVAの冷却ですが、熱中症対策としての学術研究はCWI(コールド・ウォーター・イマージョン)等のアイスバスを用いた冷却法と比べると研究例も非常に少ないようです。
あくまでも、首筋、脇の下、鼠径部の大血管の冷却が他の部位に比べると熱中症予防に有効であるという事と同程度に考えておくと良いと思います。
具体的なAVA冷却による熱中症対策はプレクール
AVAが注目されている背景にはその手軽さがあるのではないでしょうか?
AVAは主に「手のひら」「足先」「耳とその周辺や頬」に多く見られます。
主として手のひらを冷やす場合を考えると、バケツなどに水を入れて置き氷を少し入れて温度を下げて、スポーツ時のインターバルに数分間手のひらを浸けるだけで、プレクールの効果が得られます。
P-PECのような浅型で小型のアイスバスがあれば、少ない水量で多くの人が一度に使えます。
また、保冷材のパックを手で握ったり、凍らせたペットボトルを握るなどでもAVAの冷却効果は得られます。
こうして、暑熱環境で運動をする前に予め体温を少し下げておくプレクールや、インターバルを使って上昇した体温を下げるクールダウンを行う事で熱中症の発生リスクを下げる事が可能です。
あまり冷たすぎると血管が収縮して逆に効果が下がるので15℃前後の水温や氷をカバーで包むなどの工夫をすると良いという説もありますので、以下のNHKのニュースページも参考になるかもしれません。
参考資料:
参考文献: 当ページのAVAに関する内容は以下の文献を参考にしています。
- 動静脈吻合の体力医学的意義 (信州大学HP) ↩︎
https://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/db/seeds/pages/75535/jp.php