熱中症応急処置 冷水浴法 アイスバスの水温は何度?

cold-water-bath-temperature-2 熱中症の応急処置

冷水浴法における最適水温と現場における現実問題を考える

応急処置のアイスバスの水温は何度が良いのですか?

学校現場やスポーツチームなどで「応急処置用のアイスバスを準備して熱中症の発生に備えて下さい」というお願いをしますと「冷水浴法の水温は何度が良いのですか?」というご質問をよく頂きます。

・「真夏は水道の水はぬるいですが、それでも効果はありますか?」
・「氷はどれくらいの量を用意すれば良いのですか?」
・「ネットで氷水に浸けてるのを見ましたが安全ですか?」
このようなご質問も多くあります。

残念ながらこの水温で行えば良い!という明確な指針は出ていないのが現状だと思います。
そこで、今回は当サイトで収集した最先端の情報を踏まえ様々な要素を考えてみました。

熱中症対策としてアイスバスを準備される団体様それぞれの実情に合わせ、子供たちやアスリートの命を確実に守るための最善の準備の中で、後述する様々な要素を考慮して最もパフォーマンスが高く、弊害が少なく、実行可能な水温を決定することのご参考にして頂ければ幸いです。

冷水浴法を医療レベルと応急処置レベルに分けて考える必要性

医療的な考えでの水温
 【2℃~5℃】

医療者の方が直腸温のモニターをしながら最大限の冷却効果(救命効果)を発揮させる為にこの様な極低温の水温を選択される場合が多くあります。

冷却速度の観点から言えば2℃~5℃という極低温の水に浸けるのは最も冷却スピードが速いのは当然です。
この水温がどれくらい冷たいかというと、冷蔵庫でキンキンに冷えたビールやジュースの温度を想像するとわかり良いかと思います。

また様々な情報媒体で冷水浴法として紹介される場合もこの様な水温を前提として説明されている場合が多々ありますが、あくまでも様々な状況が整った状態での事なので、オリンピックをはじめとした大規模な大会の救護所での応急処置や病院での処置に限られると考えるのが自然です。

学校現場やグラスルーツのスポーツの現場での緊急事態にこの温度を実現しようとしても、まずとてつもなく大量の氷が必要であり一般の応急処置の範疇では物理的にも無理があります。

たとえこの温度に水温調整ができたとしても低体温症まで突っ走る危険等を考えると、一般の応急処置の現場で考えるべきではなく、5℃以下という極低温は現場に医師がいた場合や状況が整っている場合に選択される水温だと私は考えます。

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水温20℃なら重症熱中症からの救命効果のボーダーはクリア!

比較的調整しやすい・・水温20℃

さて、前項では医療者が2℃~5℃という極低水温で冷水浴法を行うお話をしましたが、深部体温が42℃程度になっている重症熱中症からの効果的な救命のタイムリミットとされている「30分以内に3度の体温低下」1という冷却速度の条件を満たす為にはどの程度の水温ならクリアできるのでしょうか?

米国の研究機関が発表したデーターの中から抜粋すると20℃の水温の水に浸漬すれば、約18分~20分程度で3度の深部体温低下をもたらす冷却速度を得られると計算されます。
タイムリミットの30分は大きく下回りますので救命効果としては20℃の水温は合格と考えて良いと思います。

事実、環境省熱中症予防情報サイト2の動画情報「熱中症発生時・現場でできる対応例」の中でも横浜国立大学の田中英登教授が20℃以下の冷水なら効果が高いとはっきり仰っています3

因みに効果的と言われる「首筋・脇の下・鼠径部」の太い血管を氷などで冷やす方法の冷却速度をデーターから計算すると深部体温を3℃下げるのにタイムリミットの3倍の90分間もかかりますので、重症熱中症からの救命には全く適さない事がわかります。

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真夏に20℃の水をゲットするには?

P-PEC内の80リットルの水は1㎏の氷で水温1℃下がる

熱中症は真夏に限らず暑熱馴化の進まない4月の後半から10月中旬までの間に頻発します。
そこで、図は東京都の水道局が100を超える計測ポイントで一年間の水道の蛇口の水温を図ったデータの平均値4です。

表の平均値を見る限り、5月、6月、10月においては20度の水温は水道の蛇口からのそのままの水道水で得られそうです。

7月、8月、9月においては、氷を投入するなど何らかの方法で水温を調整してあげる必要があります。

冒頭に記載の通り氷の融解熱から単純に計算すると、水道水をアイスバスP-PECに80リットル入れた場合、7月なら約3kg、8月なら約7kg、9月なら約4kgの氷があれば20℃の水温に調整する事が可能ということになります。

これは低水量で全身冷却可能なP-PECでならではの話なので、例えば一般的なレジャープールをアイスバスに流用している場合なら平均300リットル程度の水が入っていますので、氷の量は約4倍必要になり、8月なら28kgもの氷がないと20℃の水温は得られない事になります。

応急処置専用機材であるP-PECの優位性はこういった点でも発揮されます。

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体感的に【水温20℃】や【氷7kg】ってどれくらい?

水温20℃とはどんな感じなのでしょうか?

例えば夏に海水浴に行って海水温が26℃なら程よく冷たくてちょうど気持ちいいと感じる人が多いです。
逆に水温24℃だと、少し長く入っていると肌寒いと感じる人が多いと思います。

因みに室内プールの水温は27℃前後に調整されている場合が多いようです。

こう考えると水温20℃は体感的には比較的冷たい温度だと分かります。
バラつきはありますが、本州太平洋側の4月中旬~5月の海水温度が20℃前後となります。
水温20℃のイメージができましたでしょうか?

では7Kgの氷とはどれくらいの量?

真夏8月! 水道水の蛇口からは27℃前後のぬるい水が出てきます。この時P-PEC内の80リットルの水を水温20℃に下げるには約7kgの氷が必要です。

2リットルのペットボトルに水を入れて凍らせておけば約2kgの氷となります。
これが4本で約8kgになりますので、小型のクーラーボックスにちょうど収まるくらいですね。
少年野球やサッカーのチームなど、分担して1本づつ持ち寄れば準備は容易です。

ただし、氷が解ける速度を考えると塊の状態よりもキューブアイスのようにバラバラの方が早く溶けて水温も早く下がりますので、半分程度は家庭用冷蔵庫の製氷皿で作るキューブ状の氷の方が良いでしょう。緊急時にはコンビニで購入する事も可能です。

学校現場など保健室の冷蔵庫の容量が小さければ、ジップロックに少しづつ溜めておいて数袋用意すると良いと思います。

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まとめ 第一に【広い面積】を【熱伝導率の高い水】で冷やすという事

さて、重症熱中症からの救命には従来言われていたような部分冷却ではなく、アイスバス等を用いて冷水で全身を冷やすのが最も効果的で希望の持てる方法だという事を十分認識した上で、ではアイスバスが用意できた場合や、それに代用できるものが用意できた場合に何度の水温が良いのかという事を考察してきました。

結果として水温20度が確保できれば効果的な救命が可能だという事は分かりました。

現場に直腸温を測定できる環境と水温のコントロールを判断できる医療者などがいれば、5℃前後の極低温の水温を選択すれば最も早く深部体温を下げることが可能です。

しかし、そのような状況は無いケースが大半ですから、応急処置を行うバイスタンダーが低体温や心疾患の二次的リスクを最小に抑えながらも、既に発生している熱中症による危険な状態から高確率で救命できる水温としては20℃を目安とするのが良いのではないかと思われます。

勿論、水温もさることながら冷水浴法のメリットとしては水の中に浸かる事により冷媒との接触面積が最大になるという事が挙げられます。

そして、水の熱伝導率は空気の20倍もあり、クーラーの効いた部屋や扇風機などで空気との接触で冷やすのとは比べものにならない効率で体温を下げられる事です。

ではシャワーや水道のホースで水を浴びせた場合も同様の冷却効果が得られるかというと、そうではなく水の中に浸かっている場合と比べシャワーの冷却効果は遥かに劣る事が実証されています。

最近は「アイスバスの次には水道水散布法が推奨される」という紹介文が多いのですが、学校などの安全管理者の方は「じゃあ水道水散布法でいいや」と思うのではなく、水道水散布法は全身を水中に浸漬する場合と比べると遥かに冷却速度が遅い事を理解しておく必要があります。
そして、想像してみてください貴方の学校の中で倒れた子供を寝かせて水道水をジャンジャンかけても支障のない場所は屋内にありますか?
もし屋内の日差しが遮られた場所で水が床にジャンジャン流れても良いのなら、そこで水道水散布法をすれば良いかもしれませんが、散水する場所が屋外であれば日差しに加えて、アスファルトやコンクリートは焼けるように熱くなっているはずです、そこに子供を寝かせる事ができますか?

また、真夏の水道から出る水は27度というぬるい水温ですので、浸漬法より効果のおちる散水法では更に効果が期待できない事も理解しておきましょう。
あくまでも水道水散布法はある程度冷たい水が水道の蛇口から出ることを期待しているのです。
学校関係者の方はアイスバスが使えなければ水道水散布法が推奨されるという言葉を鵜呑みにしないで、本当にそれが可能であるのかも含めて考えて下さい。

結論としては
極端に低い水温でなくとも「全身を水に浸ける事」で、より広い面積を冷やす事が重要なのです。

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  1. 参考文献:全米アスレティックトレーナー協会の見解表明: 労作熱性疾患
     https://doi.org/
    10.4085/1062-6050-50.9.07 ↩︎
  2. 参考文献: 環境省 熱中症予防情報サイト
     https://www.wbgt.env.go.jp/ ↩︎
  3. 参考文献(動画) 熱中症発生時・現場で出来る対応例 解説 横浜国立大学 田中英登教授 
    https://www.youtube.com/watch?v=h0VXjmOL-Ew  ↩︎
  4. 参考文献:東京都水道局 水道水の水温
     https://www.waterworks.metro.tokyo.lg.jp/suigen/topic/03/  ↩︎