熱中症による被害・死者が増えていることが社会問題化しています。
近年、文部科学省スポーツ庁、環境省、救命医、NHKなど、新しい情報では熱中症の応急処置対策にアイスバスによる全身冷却が最も効果的であると推奨される事が多くなりました。
アイスバスによる全身冷却は最新かつ最善の応急処置法であり、従来言われてきた「首筋・脇の下・鼠径部の冷却が有効」などという表現は徐々に少なくなってきています。重症熱中症に対しては首筋などの部分冷却は冷却効果が小さすぎる事が認知されてきた現れでもあるでしょう。
今回は、アイスバスによる熱中症の応急処置がいかに有効かという事を証明する為に次のポイントをご紹介していきたいと思います。
熱中症対策をすることが法律で決められた!?
気候変動適応法の一部改正により熱中症対策を強化
皆さんは「気候変動適応法」という法律をご存じでしょうか?
この法律は地球温暖化に対応するための「地球温暖化対策推進法」と共に、温暖化や気候変動を何とかしましょうという趣旨で以前からありました。
しかし、ここ十数年のうちに熱中症による死者や被害が激増している事が問題となり、令和5年2月に熱中症に関わる項目を追加すべく改正されたのです。
これによって、国や市町村などの地方公共団体は熱中症による死者を減らす為の様々な具体的努力をしなくてはならないということが法律化されたわけです。
環境省では中期計画として2030年までに熱中症による死者を現在より半減させるとし、その為の様々な実行案を打ち出しています。
出典:環境省 報道発表資料 https://www.env.go.jp/press/press_01675.html
熱中症の問題は官民問わず以前から取り組んできていますが、災害級ともいわれる猛暑が毎年やってくるほどの気候変動は、とうとう死者数を減らす努力をしなければならないという法律にまでなってしまったという背景なんですね。
環境省では公共施設などへのクーラーの設置の強化など様々な予防策を考えていますが、熱中症発生後の救命対策としてはアイスバスを用いた全身冷却が最も高いとして注目されています。
次項ではこのような背景で「アイスバスを使った熱中症の応急処置」が推奨されだした事実を見ていきたいと思います。
アイスバスによる応急処置の認知度が向上!
アイスバス(浸漬法・冷水浴法)による救命効果が広く認識されてきたという事実!
もちろん、こういった法制化の前から政府でも熱中症対策や緊急対応のフローチャートなどの情報は発信していましたが、重症熱中症の救命に対する情報は、決して救命に対して有効な最新の情報とは言えない首や脇の下の部分冷却や救急要請のみで完結しているものが大半でした。
しかし、アメリカでは10年以上前から熱中症の治療や応急処置としてスタンダードとなっていた冷却療法であるコールドウォーターイマージョン(CWI)つまり具体的には、アイスバスによる浸漬法、冷水浴法が日本の研究者や医療者の間でも広まり、彼らの努力により徐々に一般にも認知されてきたことで、政府や様々な団体でもアイスバスによる応急処置を推奨する姿勢が見え始めたという事です。
つまり、アイスバスによる応急処置が救命の為には最善の手段であるという事が日本でも理解されてきているというシンプルな理由です。
世間一般に「熱中症の救命にはアイスバスによる全身冷却が最も効果がある」という事実が認知され始めた以上、政府機関においても「知りませんでした」と言うわけにはいきませんし、今までは低体温症などの二次的なリスクを懸念していたものの、救命率が格段に高いというメリットの方が他のリスクを大幅に超えているという事実は無視できなくなったという事ではないでしょうか。
実際のアイスバスの推奨例について
文部科学省 スポーツ庁 が推奨する応急処置
さすがアスリートの室伏長官ですね。
スポーツ庁の紹介動画内ではアイスバスが最も効果があるとはっきり述べています。
アイスバスの次には「冷たい水道水をかけ続けるのが有効」と説明されているのですが、夏季においては水道水の蛇口水温は27℃から28℃になっていますので、冷たい水道水というのは若干無理があります。
水道水の温度は調整したり選んだりする事は不可能ですから、熱中症が発生する夏には「冷たい水道水」は存在しないわけで、「ぬるい水道水」をかけ続けるという現実になってしまいます。
ぬるま湯のような温度の水道水でも、上昇した体温よりも水温が低ければ幾分かの冷却効果はありますので、他に方法がなければホースで水を掛けたほうが良いとは思いますが、最低でも25℃以下の水でないとやはり救命効果は下がってしまいます。
つまり水道水散布法が効果を発揮するには「冷たい水が出る水道」がある事が前提なので、水道水散布法に頼ろうとするのは少し早計かも知れません。
結局のところ、わずかな氷で効果的に冷却できる水温に調節できる応急処置専用のアイスバスP-PECを準備して、処置のトレーニングをしておくことが最善の対策になります。
また、実際の応急処置の際の参考資料として、スポーツ庁の委託事業で日本スポーツ振興センターが作成した熱中症対応フローチャートにも「アイスバスでの冷却が一番」とされています。
因みにここでも、昔言われていた「首・脇・鼠径部の部分冷却」については一切触れられていません。
熱中症への対応 フローチャート 学校安全部 ※新しいタブで開きます
環境省の推奨する冷水浴法の動画
「熱中症発生時・現場でできる対応例」 解説:横浜国立大学 田中英登 教授
※新しいタブで約4分間のYouTube動画が開きます
環境省は政府の省庁の中でも熱中症対策には力を入れていて「熱中症予防サイト」などで積極的に予防や対応の情報を発信しています。
ここで一つ注意しておいて頂きたい事に環境省の過去の情報の中には以下のような記述があり、医師が居なければアイスバスでの応急処置はしてはいけないと勘違いしている人もおられますが、それはあくまでも直腸温を計りながら医療レベルでの処置を行う事を前提としていますので、直腸へ温度計を入れたりしなければ医療者がいない状態で冷水浴法による応急処置をする事は法的にもなんら問題ありません。
スポーツや労働の場での労作性熱射病(何らかの意識障害)が疑われる場合は、全身を氷水(冷水)に浸ける「氷水浴/冷水浴法」が最も体温低下率が高く、救命につながることが知られていますが、必ず医療有資格者を事前に配置し、直腸温を継続的にモニターできる人的・物的環境が整った状況で実施して下さい。
https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_2-3_2-4.pdf
※直腸温の測定は医療行為に該当する為、直腸温を測定しながらの冷水浴法には医師が必要という考え
最近では熱中症からの救命を優先するという観点でスポーツ界においては、概ね以下に引用した日本スポーツ協会の見解のように、直腸温のモニターができない環境でも冷水浴法ができるなら実施すべきという考え方がコンセンサスとなっています。
ただし、直腸温の測定ができない場合でも、熱射病が疑われる場合には身体冷却を躊躇すべきではなく、その場合には「寒い」というまで冷却します。運動時の熱射病の救命は、いかに速く(約30分以内に)体温を40°C以下に下げることがで きるかにかかります。
引用元:日本スポーツ協会 医科学研究 熱射病が疑われる場合の身体冷却法
https://www.japan-sports.or.jp/medicine/heatstroke/tabid916.html
もちろん冷やしすぎて「低体温症」になるようなリスクも無くはありませんが、専門家の間ではアイスバスより遥かに冷却効果の劣る首筋、脇の下、鼠径部の部分冷却を行うよりは、救急隊に引き継ぐまでの応急処置としては救命の可能性の高い冷水浴法を選択する事が最善とされています。
高い救命効果というメリットと、冷やしすぎるかもしれないという二次的なリスク、どちらを選択するかは考え方のバランスの問題でありますが、最近では文科省スポーツ庁のように最新の考え方で冷却効果(救命効果)を優先していく方向に変わってきているのが現状です。
最前線の救命救急医によるアイスバスでの熱中症治療例
近年、熱中症の応急処置にアイスバスが推奨されるようになってきたのはご紹介してきた通りです。
もちろん、救命のプロフェッショナルである医療者も、早くからCWI(冷却療法)を取り入れ、実践されてきています。
そんなプロ中のプロの中でも、新潟県の地域の医療を担い、ドクターヘリと連携した高度な医療体制で人々の健康と命を守る救命救急ドクターの実際の熱中症治療例をご紹介します。
登山中に重症の熱中症になってしまった「意識が戻る確率3%」という患者をドクターヘリとの連携でアイスバスによる治療を施し、見事に早期回復させ社会復帰を果たすことができたという実例です。
写真をクリックしていただくと、魚沼基幹病院の救命救急センター長の山口医師が、重症熱中症患者に対し、実際に緊急搬送から治療を施した様子を記されたブログに飛びます。
リアルな現場の熱中症治療の緊急対応の様子をぜひご覧ください。
※魚沼基幹病院のブログが新しいタブで開きます
2023年、NHKでもアイスバスを強く推奨
NHK(日本放送協会)でも動画サイトやコンテンツで、主に学校現場での熱中症事故に対する対応方法として、アイスバスが最も救命のために有効である事を紹介しています。
最新の情報を紹介する中で、従来から言われてきた「首、脇、鼠径部」の部分冷却が重症熱中症の応急処置にはほとんど効果が無いこと等を、大学の研究者の言葉とともに紹介し、救命知識の誤認の無いように伝えてくれています。
熱中症は100%救命できる!
なんとも頼もしい言葉です。
正しい知識と機材の準備があれば、学校現場で起きた熱中症事故から、子供たちの命を100%守ることができるという根拠は、アメリカの国立機関での膨大な研究実験データーから割り出された結果のようです。
このアメリカの話では大型のアイスバスを設置して応急処置をするという大変な計画ですが、日本には3秒で設置できる応急処置用アイスバスP-PECがあります。
日本のすべての学校現場にP-PECを設置して頂く事を願うばかりです。
「熱中症は、倒れてから10分以内に冷水で冷却を始めれば、100%救命できる」。
引用記事:NHK みんなでプラス 学校教育を考える 子どもの命を守るには(下記リンク先参照)
これは、アメリカで部活動中などの熱中症による死亡事故を研究している専門家のことばです。
なぜ、ここまで言い切ることができるのか?
※新しいタブでNHKの文字サイトが開きます
レジャー用プールをアイスバスに代用しての応急処置例を約1分の動画でご覧いただけます
※新しいタブでNHKの文字サイトが開きます
まとめ
如何だったでしょうか?
なぜ、政府も主要な機関も、こぞって熱中症の応急処置にアイスバスを推奨しだしたのか?
熱中症による死者数が増加を続け、予防だけでは命を守ることが困難である事が理解され始めた結果、本気で熱中症から命を守る為には予防啓発以外にに何が必要なのかを真剣に考えた時、アイスバスによる応急処置を推奨するという結論に至ったのではないかと思います。
従来のように「首筋を冷やして救急車を呼ぶ」これで何とかなる等という考えでは、到底子供たちやアスリート、労働者などをはじめとする全ての人々の命を守ることはできないという事もはっきりしてきているといえるでしょう。
学校関係者、労働現場の安全管理者の皆様、ご自身の周りの全ての命を熱中症から守るため、応急処置専用アイスバスP-PEC(ピーペック)の設置をご検討ください。