100%救命する為の!熱中症応急処置6項目

熱中症で倒れて意識の無い少年 熱中症の応急処置

熱中症で死者を出さない為に絶対覚えて置きたい6つのポイント

温暖化の影響で熱中症の死者数は年を追うごとに増えています。
人々は水分補給の啓発やクーリングシェルターの設置、WBGTを用いて活動の規制など様々な対策を施しています。

このブログを読んで頂いている貴方が、学校関係者、スポーツチームの監督やコーチ、企業などの労働環境の安全管理者だとしたら、同様に熱中症予防には頭を悩ませておられることでしょう。

しかし、どんなに予防しても熱中症の発生をゼロにする事はできないのです。

そこで、今回はこれだけを抑えて置けば、貴方の関わる団体から熱中症の死者を出さないで済むポイントを6つあげてみました。
救命の為にやや強い表現をしています。いろいろと御異論もあると存じますが、どうかご理解下さい。

このフローチャートは応急処置に関する情報が古く、特に重症判断後の対応説明が不十分で救急車頼み、冷却方法に関しても効果の低い方法の紹介のみで、中等症以上の患者を救う為の情報がありません。

「熱中症が発生したらどうしよう?」「対応の情報を確認しておきたい!」と思ったとき、誰でもネットで検索してみることでしょう。

「熱中症」「応急処置」などのキーワードで探ると、環境省やそのデータを流用した行政機関や市役所、大手企業などの熱中症応急処置フローチャートなるものが判で押したようにゾロリと出てきます。
これは検索エンジンの規定が国や公共機関などの情報ページを最優先するためで、自ずと○○省のページの次は○○市の熱中症についてのページと、あらゆる市町村の同じような内容のページが検索結果に延々と続いていきます。

記載されている事と言えば、「涼しい場所へ」「経口補水液などを飲ませる」そして大の字になった人形の「首・脇・鼠径部」を保冷剤のような物で冷やす図がセットです。
さらに重症疑いの場合は「救急車を呼んで病院へ」これで完結してるものが大半です。
前述の理由で政府の○○省等が10~20年前に発信した非常に古い、又は最新の重症熱中症の対応法に比べるとある意味間違った元ネタをそれぞれの下部機関がコピーして利用しているからです。

実はこのフローチャートはコピーや一部改変されながら10年以上前から古い情報のまま、インターネットの中で残り続けています。
何年も前にアップロードしてから情報更新されていないのです。

これらのチャート情報は間違いではないものの、現場での救命を含む最新の応急処置という観点からいうと、軽症程度の症状までしか対応できず、現代の熱中症の救命に十分有効とは言えないものが多くありますので、読み手側が精査する必要があります。

古い情報のチャートは大の字になった人形の首や脇にアイスパックが乗せられた図(重症熱中症には非常に効果が低い冷却法)が表示されていたり、救急車要請後の到着までの間に水による広い面積の冷却について触れられていない事で見分ける事ができます。
※但し、首や脇の部分冷却は熱中症の予防や極めて軽症の場合ならある意味で有効な対応です。

おすすめ

スポーツ庁の熱中症フローチャートが秀逸でおすすめです!(外部リンクで開きます)

ネット検索では上位に出てきませんが文部科学省スポーツ庁の委託事業で、独立行政法人日本スポーツ振興センターが発行している熱中症対応フローチャートが、熱中症の最新の情報を採用して作られていて大変わかりやすい内容となっています。
※最新の情報では重症の場合の対応には部分冷却ではなくアイスバスを推奨している事が良くがわかります。

heatstroke-flowchart

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さて、前項で書いた通り多くの応急処置の情報を提供するチャート図で「救急車を呼んで!」という形で完結しています。

しかし「絶対に死なせない」という観点からは救急車を呼んだだけでは手遅れになるといえます。

何故なら重症熱中症の患者の深部体温は42℃程度であり30分以内に38℃台まで下げないと死亡するか重大な後遺症が残る危険があるといわれているからで、単に救急車で病院に搬送するのでは30分を大幅に超えるからです。

救急車は患者を搬送するのが目的で、到着すればすぐに有効な治療をしてくれるわけではありません。
救急車の平均到着時間はここ数年遅くなる傾向にあり、平均約10分程かかります。患者を病院へ収容するまでのトータル時間では実に平均47分となりますので、重症の場合は救急車の到着まで現場でアイスバスなどの有効な方法で応急処置をしておかないと救命率は著しく下がるわけです。

しかも、救急車の車内ではアイスパックでの部分冷却くらいしか出来ないので、救急車が到着しても、現場にアイスバスがあるのなら救急車に収容せずにそのまま暫くアイスバスで全身冷却を続けた方が救命率が上がる場合も多いと思われます。

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昔から熱中症には「首筋・脇の下・鼠径部を冷やすのが有効」このフレーズだけが独り歩きしていて、どんな症状の時にも有効だという誤認につながっているのが現状です。

誤解を恐れずに言うと、重症熱中症の場合この3点を冷やしても殆ど救命の役にはたちません。
こう言うと必ず猛烈に抗議してこられる方がおられますが、事実です。
他に体を冷却する方法が一切ない場合はこの3点を冷やして下さい。
私もかつてそのようにしていました。

米国の研究でこの首、脇、鼠径部の3点冷却法では救命できる深部体温まで下げるのにタイムリミットの3倍の90分前後もの時間を要する事が明らかになっています。

この大血管の部分冷却「何もない皮膚を冷やすのと比べると有効」という事は確かです。
しかし、この大血管の3点冷却以外にも手足にあるAVA(動静脈吻合)のある場所を冷やすのも、他の場所に比べて効果的に冷えるという研究もあります。

いずれにしても、重症熱中症からの救命に「首・脇・鼠径部」の冷却で満足していたら、またはその準備しかしていなければ「絶対に死なせない応急処置」はできません。

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例えばスポーツの現場で骨折で救護してきた人が、救護所内で気が付いたら「さっきまで折れてなかった他の骨までどんどん骨折していった」なんて事はあり得ません。

しかし、熱中症疑いの症状で倒れた人を日陰の救護所まで運んできて「軽症」の判断をしたとしても、10分後には意識がなくなったり、見当識障害が出てきたり、といった事は頻繁にあるのです。

「熱中症の症状は進行する可能性が高い」という認識を持って、水分補給や十分な身体冷却など、重症化の防止に全力を尽くす事が大切です。

意識がしっかりしていたとしても。体内に籠った熱を逃がす意味でも、冷水でのシャワーやアイスバスを使って積極的に身体冷却を行いましょう。

軽症や中等症でアイスバスを使ってはいけないという事はありません。
適度な水温のアイスバスやシャワーで身体に籠った熱を逃がす事は大切です。

一旦回復したと思っても、帰宅途中に倒れたり、帰宅後に死亡したという例もあります。
籠った熱を逃がし、上昇した深部体温をできるだけ早く下げる重要性がここにあります。

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熱中症に限らず命に係わるような事故の現場に偶然立ち会った人の事を「バイスタンダー」と呼びます。

救命の現場ではこのバイスタンダーの的確な判断と行動力が患者の命運を分けることになる場合が多いです。

残念ながら日本人は無意識のうちに、集団に埋もれ周りに合わせ平均的な状態を好む行動をとる場合が多く、熱中症の応急処置に対する判断でも「とりあえず首や脇を冷やして様子を見よう」と考える人が少なくありません。

アイスバスとかおおごとに見えるし・・・、衣服も濡れるし・・・、たいした事なさそうだし・・・、こんな下らない理由で全身冷却を躊躇して部分冷却で様子を見ようとされる方が大多数なのです。
そして、その判断によって命を落とした子供やアスリートが大勢いるのが事実です。

熱中症の症状は前項で述べたとおり、今は軽症に見えても、体内に籠った熱によりすぐに重症化する場合が多いのです。

例えば、外傷で傷口から大量の出血をしている患者に立ち会ったバイスタンダーなら、なんとか出血を止めようと判断する場合が多いと思います。救急車を呼んだからといって出血を放置したまま様子を見ている人は少ないでしょう。

熱中症の場合も同様に考える必要があります。救急車を要請したとしても、何とかその場で一刻も早く体温を下げる努力をしなければなりません。

「とりあえず様子を見る」という選択肢が熱中症においてはいかに危険なものであるか、症状を見分ける判断材料となる知識の整理と共に、再度考え直してみる事が大切かと思います。

熱中症においてはとにかく全身を冷却する事、仮に冷やし過ぎたとしても、冷やし過ぎによる弊害よりも、冷やさなかった弊害の方が遥かに大きいと認識すべきです。

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熱中症の応急処置には現場でのいち早い身体冷却が救命のカギとなる事は繰り返し述べてきました。

その冷却の方法として、氷、アイスパック、クーラー、扇風機、うちわ、霧吹き、水道のホース、アイスバス、など様々な方法(熱移動媒体)があります。

熱中症の予防やごく軽症の場合の冷却には、氷による部分冷却や涼しい場所への移動、クーラーや扇風機の風も効果を発揮します。

しかし、熱中症疑いの症状が出てそれが軽症を超えていると判断された場合は、一刻も早く体温を下げて重症化を阻止する、または救命を図る為により強力な身体冷却の方法を選択する必要があります。
高体温(深部体温)の時間が30分を超えると神経や臓器の細胞の蛋白質がゆで卵のように固まってしまい元には戻らず重い後遺障害や生命の危機に晒されるからです。

急速な冷却の媒体として「水」に勝るものはありません。

例えクーラーから噴き出す冷気を直接身体に当てたとしても、空気の熱伝導率は水の20分の1でしかありません。

体の表面の皮膚が冷たくなるだけで、体内に籠った熱を奪い去る効果は低いので、深部体温は思ったよりも下がりません。

何といっても水は「熱伝導率」が高い事、そして水に浸かる事は「媒体との接触面積が最大」である事! このメリットは他のどの冷却媒体よりも優れているのです。

絶対に死なせない為には「水の神様」に頼るのが一番の方法です。

水を使って身体のできるだけ広い面積を冷やす!これが重症熱中症からの救命の最重要事項です。

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軽症(Ⅰ度)の熱中症で人が亡くなる事はありません。

中等症(Ⅱ度)の熱中症でも人が亡くなる事は殆どありません。

重症(Ⅲ度)の熱中症で30分以上経過すると死亡リスクが高くなります。

しかし、熱中症はあっという間に軽症から重症に進行します。
軽症であれば重症化させないこと。
重症になってしまっていたら、その場で一刻も早く深部体温を下げること。
この事を念頭において、自身の周りで熱中症患者が発生した時の緊急対応のフローとそれに必要な機材の準備を熱中症シーズンまでに余裕をもって完了させておくこと。
災害の避難訓練と同様に熱中症の応急処置の対応の訓練も行っておく事が「熱中症で絶対に死なせない」為のポイントになります。

環境省やそれをコピーした市町村、地方公共団体、経口補水液を製造する大手メーカーなどの応急処置のフローチャートには、熱中症が発生したら、涼しい場所に移動させる、重症なら救急車を呼ぶ、医療機関へ運ぶとなっています。

そんな事は誰が考えても解ることであって、本当に知りたいのは「どうすれば死なないのか?」「何をすれば助かるのか?」「何をしなければ死ぬ可能性が高いのか?」といった具体的なことだと思います。

多くの熱中症対応フローチャートは軽症中心であって、あとは「救急車任せ」「病院まかせ」となっています。これらのチャートを見て満足してはいけません。
救急車の要請だけでは重症熱中症からの救命の確率が低いことは何度もお話ししている通りです。
ご自身の心の中に「絶対に死なせない対応のフローチャート」を作成しておく事が必要では無いでしょうか?

補足:本投稿において「100%救命」と題した根拠は、アメリカでの有名なファルマスロードレースというマラソン大会において、有名な研究機関が長年の研究データを積み重ねた結果、本投稿で推奨している重症熱中症への救命の為の対応方法と同じアイスバスを用いた全身冷却(浸漬法)によって、対応した事例454件について100%の救命率が確認されたとの論文1が発表された事によります。

  1. ファルマス ロード レースでの運動性熱中症生存率: 拡大分析により 180 件の新規症例が判明  https://meridian.allenpress.com/jat/article/59/3/304/495538/Exertional-Heat-Stroke-Survival-at-the-Falmouth ↩︎